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FFVII いばらの涙 邂逅譚

第6章 finale


 ヴィンセントが壁にもたれ掛かり部屋を見渡す。

「……ここに来ると……君と初めて出会った時を思い出すよ……」
「ん、と……神羅ビルの研究室?」
「いや……」

ヴィンセントが何かをシャロンに手渡す。
それはゴツゴツと花びら様に模様をつけた不思議な石だった。

「もっと昔……この場所で」
「え……?」

 シャロンの時が止まる。
ヴィンセントの言葉を理解するのに時間を要した。記憶にない話。

「……昔……もう数十年前になるか……。私は父に連れられて、この地を訪れたことがあった。まだ十代だった頃の話だ」

時折シャロンの様子を確認しながら話を続ける。

「退屈を持て余した私は……拠点を抜け出してこの辺りを歩き回っていた……。そしてある時、この窓からも見えるあの湖のほとりに、月夜に照らされた女神を見つけた」
「あの湖……?」
「ああ。私が引き寄せられるように彼女の元へ行くと、彼女は振り返り、真っ直ぐに私を射抜いた。……その美しい瞳でな」

 彼がシャロンの目の前に立ち、頰骨を優しく撫でる。
シャロンは確かにこの場所にどこか懐かしい空気を感じていた。しかし、はっきりと思い出せるような記憶はない。どのように過ごしていたのか、誰と暮らしていたのか、何一つ。
とはいえヴィンセントが嘘をつくとも思えず、混乱したように瞳を泳がせた。

「君が覚えていないのは仕方がない。……あのあと君は、どういうわけか神羅の科学者の手に渡っていた……。私も神羅に入ってから、この地にまつわる調査をしてみたが……残念ながら有益な情報は得られなかった」
「………。何と言ったらいいのかわからない……」
「無理もない……」
「あのね、ヴィンセント……私は昔、どんな子だった?」
「今と変わらない。穏やかで……奥ゆかしいが……芯は強い。そして……とても美しかった。今も……変わらない」

 シャロンの頬を撫でながら目を細めるヴィンセントの視線が熱い。
シャロンは頬を染め、その言葉に酔う。彼の元に帰れたら、どんなに幸せだろうか。
いつの間にか瞳に溜まった涙がこぼれ落ち、先程手渡されたクリスタルのような結晶に雫が伝う。
花の結晶はシャロンの涙に呼応して強く輝いた。
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