第6章 finale
ヴィンセントは彼女の頰に伝う涙の筋を指で拭い取ると真っ直ぐ彼女の瞳を見つめた。
「君は……変わらないな」
「いいえ。私は変わってしまったよ……。あなたの側にいた私は、もう過去のもの」
「なぜそんな事を? こうしてまた会うことができたのに……」
ヴィンセントがそう言うが、シャロンの表情には靄がかかったままだった。
「……人が変わるのは自然なことだ……。私にも変わったところはあるし、君も確かに昔に比べ少し雰囲気が大人びたな……。だが、君が君であることに変わりはない……」
優しい言葉にシャロンは唇を結んで涙が出そうになるのを堪えた。
ヴィンセントはシャロンの様子を察してか、場所を変えようと言った。このまま再び拗れてしまうのは彼にとっても避けたいことなのだから。
シャロンは押し黙ったまま彼のあとを追う。
海辺に建つ小さな白い小屋。旅の疲れを癒すには十分だが、必要最低限のものしか置かれていない無駄のない建物で、人の住んでいる気配はなくノスタルジックな雰囲気が漂う。
シャロンが一歩足を踏み入れると、どういうわけか心がざわめいた。何か既視感のようなものを感じ、不安げにヴィンセントを見ると、ソファに座るよう促されたのでその通りに足を運ぶ。
「ここは……」
ソファに座りながら辺りを見回す。
「どうした?」
「なんだか、この場所、知っているような……」
「……そうか」
向かい合い、暫しの沈黙が二人を包む。
昔とは違い、沈黙が心地良くは感じられなかった。
ヴィンセントにセフィロスのことを話すのが怖いわけではない。責められるのが怖いのではない。
それを全て受け止めてしまいそうなヴィンセントの優しさが怖かった。そしてそれに甘えてしまいそうな自分自身も。時間が妙に長く感じられる。
「ヴィンセント、やっぱり私……」
「シャロン。少しだけでいい……。頼む」
ヴィンセントは言いながら視線を逸らした。眉をひそめて、余裕のない表情に心が締め付けられる。
「ずるい……」
そんな顔をされては、シャロンの口からノーの言葉が失われる。
持ち上げかけた腰を再びソファに降ろす。
彼女は自分が彼をどんなに好いているのか実感する。本当はずっと会いたかった。断れるはずなどなく、意志の弱い自分を心の中で責め立てた。