第5章 forbidden lovers
その日も変わらず大きなバケツを持って井戸水を汲み上げていた。
肉体労働に慣れていない頃は〈いばら〉の魔法を使って楽に汲み上げたりしたが、村人から、やたらに能力を使わぬよう教えられ、今では一般の人々と同じように生活を送っていた。
井戸水を汲み上げ、揺れる水面を見つめる度様々な事を思い出す。
この場所は町外れ。誰の目も届かない。
「ヴィンセント……」
一人ぽつりと呟いても、聞いているのは木々だけ。
しかし、今日は他にもその声を聞くものがあった。
「残念だ。せっかく会いに来てやったのに、別の男の名を聞くことになるとはな。探していたぞ、シャロン」
威厳のある低音。はっと振り返る。靡く髪。長剣。それはまさにセフィロスだった。
シャロンは見知った顔に喜びを露わにしたが、すぐに顔を強張らせる。身をかわす余裕もなく、セフィロスの長剣が彼女の胸に振りかざされたからだ。
シャロンは胸を貫かんとしている彼の刀を手で避けて間合いに入る。
「セフィロス……生きていたのね。今までどこに?」
「旅をしていた……。そこで膨大な知識を得て、わかったことがある。ちょうどお前の事を思い出してな。お前にも教えてやろうと思っていたところだ」
言い終えるとすぐさまセフィロスは後ろへ飛び退き、再びシャロンと間合いを取る。
彼の身のこなしを目で追うのが精一杯だったが、いばらを盾に、振りかざされる彼の長剣を寸でのところでかわす。
「流石だな。クク…。なに、焦ることはない。私はお前を殺そうなどとは思っていないのだからな」
「切りかかってくる人の言う事を信じろと……っ」
セフィロスはにやりと笑いシャロンの腹部を蹴り飛ばすとすかさず彼女の腹部から胸部にかけてを一太刀で斬り裂いた。
声を上げる間もなく衣服が剥がれ、露わになった肌は赤くぱっくりと割れ鮮血が流れる。
くらりと目眩がしながらなんとか踏みとどまるが、彼女は何が起こったのかわからないというように立ち尽くし、流れる血を眺めていた。
「セ……フィロス……」
「ほう……死ぬ間際に呼ぶのは私の名……それも良い……クク……」
「何が目的なの……」
「フ、ここまでの深手を負って何故立っていられる?」