第4章 砂時計
明朝、シャロンが目覚めると、セフィロスは既に支度を済ませていた。
「……覚悟は出来ているか」
「ええ。いつまでも逃げていては、彼にも悪いもの……」
「支度を済ませたら静かに降りて来い。誰にも見つからずに。長くは待たない」
シャロンが頷くのを見ると、セフィロスは先に部屋を出た。
シャロンは妙な緊張感に胸を押さえる。とうとう自分の時間が進んでしまう。屋敷を飛び出したあの時から、止まってしまった時計の針が。自分を落ち着かせるように深く息を吐くと、着替えを済ませ静かに部屋の扉を開けた。見張りらしき男が伸びている。意識はある。セフィロスの仕業だろう。静かに階段を降りる。
少し遅くなったかと思ったが、外ではセフィロスが待っていた。
「待っていてくれたの」
「一人では行けないだろうと思ってな」
「そうね、そうかもしれない……」
少し間があく。言葉を聞いたセフィロスがどのような表情をしていたのか、暗がりで見えない。
「人が起き出す前に行くぞ」
セフィロスはシャロンの手を取り、足音を立てないように静かに歩き出す。
シャロンはかなり足が重かったが、セフィロスという躍進力を手に入れ、前に進むことしか出来なくなっていた。
「怖いか」
「少しだけ。……ううん、やっぱり、とても怖いよ。20年も足踏みしていたのだもの」
「だろうな。俺もだ」
シャロンは前を歩くセフィロスを見る。正確には見えていないが、その存在を気にするようにその方向を向いた。あのセフィロスが、怖いとは。どういうことだろうか。
シャロンはセフィロスのことを何も知らないことを思い出した。いや、知ろうとしなかった。何かしらの情報を手に入れようと近づくくせに、彼の中に深く入り込むことを恐れて結局突き放す。
「セフィロスにも、怖いものがあるの?」
「あるさ。多くを持っている人間は、すなわち失うものも同じ数だけある」
「セフィロスはいつから英雄なの?」
「さあな。物心ついた頃から神羅にいて、出来ない事など……なかったな」
「出身はどこ? ご家族は?」
「それを今から調べに行くのさ」
神羅屋敷の禍々しい門が眼前に現れる。忌々しい過去がフラッシュバックする。
宝条、実験、プロジェクト…。忘れてはならない重要な記憶を失っている気がして、彼女は急くような足取りで彼を追った。