第4章 砂時計
彼らの泊まる宿へ再びやってくる。つい先日訪れたばかりのセフィロスの部屋の前で立ち止まり、ドアをノックする。
「セフィロス? シャロンです……」
「来たか。お前だけ入れ……。他の奴は離れろ。こいつがいる事は本社に言うなよ」
セフィロスに言われるがまま、付近の兵士達に目配せする。皆が離れると、ドアが開けられ、中から腕を掴まれ引き入れられる。セフィロスは扉に鍵をかけ、ソファに腰掛けた。
「セフィロス?」
「シャロン、明日、日が昇る前に神羅屋敷へ行く。気になることがあってな」
「え? 神羅屋敷に……」
「お前も来い。……無理にとは言わない。ただ、俺には今のお前が幸せそうにはとても見えなくてな」
シャロンは俯いた。もちろん神羅屋敷に近付くのが怖いというのもある。しかし、そんなに自分は幸せそうに見えないのだろうか。窓に映る自分の姿を凝視して、返事が出来ずにいるシャロンの頭をセフィロスが優しく撫でる。
「シャロン、行こう。俺が守ってやる。身体も、心もな」
「……何故そこまでしてくれるの」
「お前に本気だからさ。信じられないかもしれないが」
セフィロスの言葉が胸を突き刺す。セフィロスが好意を表せば表す程、シャロンは心を痛めた。
シャロンがセフィロスを受け入れないのは、なにもセフィロスの誠意を疑っているからではない。
もしも本当に生まれる時代が違っていたら、彼と結ばれる運命もあったかもしれない。しかしシャロンは既に別の運命を辿っている。閉ざされた世界から救い出してくれた愛しい人を忘れることなど、彼女には出来ないのだ。
そしてセフィロスも、シャロンが決して手に入らないということを薄々感じながら、それでもなおシャロンを諦められずにいた。むしろ、手に入らないということが彼女の魅力を引き立てるのかもしれない。
「今日はもう眠るぞ。来る気があるなら明朝3時、静かに起きろ」
シャロンはこくりとひとつ頷いてみせた。
このままセフィロスと共に行動するということは、自分が傷付くこと、そしてセフィロスを傷付けるということを本能的に知っていたが、シャロンは共に行くことを選択した。
辛い思いがしたが、ここでセフィロスについて行かなければ、シャロンはもう永遠に神羅屋敷へ行くきっかけを失う気がして。