第3章 いばらの涙
宝条への復讐に燃え、荊棘が這っていたシャロンの肩をルクレツィアが掴み首を横に振る。
「お願いよシャロン。あなた、このままここにいたら……本当にタダでは済まないことになる……! 全てを奪われて、死にたくても死ねない苦しみに苛まれることになるかもしれないのよ」
シャロンはルクレツィアの瞳に溜まった涙を見て躊躇し、ルクレツィアの頬を撫でる。ルクレツィアは、シャロンの冷たい手がなぜか温かく感じた。研究に加担していた自分にまで慈悲を向けるシャロンの存在がとても尊く思えて、被験体となる前の姿を思い出すと涙が止まらなかった。
「シャロン……控え目で何を考えているのかよくわからなかったけど、いつもあなたは笑顔だったね。教えて欲しい事があると、ルクレツィア、ルクレツィアって駆け寄ってきて……妹ができたみたいで可愛かった……。どうして……こんなことになってしまったのかな……っ!」
突然ルクレツィアが腹部を押さえて苦しみ出す。シャロンが慌ててルクレツィアの身体をさすると、彼女は心配をかけないようにと笑ってみせる。
「あなたを見つけたガスト博士も……あなたのことをずっと気にかけていたんだよ。申し訳ないことをした、って……こんな所へ連れて来るべきでは、なかったって……うっ、あ……」
「博士っ!」
「大丈夫よ……。でも、私にはもう、時間がないの……私がしてあげられるのは、あなたを逃がすこと……それが、精一杯……。どんな手を使っても必ずあなたを解放するわ……」
「ルクレツィア! 無理しないで……」
シャロンは懇願するようにルクレツィアの身体を抱きしめる。
「無理……するわよ……。ねぇ、シャロン。あなたはたぶん、自分が思っている以上に私たちにとって大きな存在なんだよ。私たち、本当に馬鹿だった。ごめんね……。シャロン……ヴィンセントの肉体は、私がなんとかしておくから……。あなただけでも、逃げて……それが、彼の最後の願いで、一番の望みでもあるのだから」