第3章 いばらの涙
「嫌っ……嫌ぁぁ! ヴィンセントぉ!」
シャロンの悲痛な叫びが響く。ひとしきり笑い終えた宝条が研究室に入ってきたかと思うと、ポッドの前に立ちシャロンに語り始める。
「そうだ……! この男をお前の仲間にしてやろう……クク……カカカ! やはり私は天才! 物語まで描けるとは」
「命をなんだと思っているの……ヴィンセントはあなたと同じ神羅の社員でしょう、あなたにどうこうする権利はないわ!」
「あ? 馬鹿め! 素体に社員もクソもないのだよ。この男は任務中に誤って死んだ……それだけだ。それ以上の追求はない」
聞けば聞くほどシャロンの荊棘は勢いを増して、ついにポッドにヒビを入れた。
「おおっと」
ピキ、という音に反応した宝条が急いでポッドの横付けのボタンを操作すると、ポッド内に電流が走る。
声にならない声で叫び、体は痙攣する。その勢いでとうとう荊棘がポッドのガラスを割り、彼女の体は投げ出された。意識を失った体に帯電した電流が時折放電され、ぱち……と音を鳴らしていた。
「ちっ…これを割るとは…」
彼女を冷たく見下ろす宝条は、ふいに何かに気づき彼女に近付く。
「ああん? そういえばこいつ……記憶を保てるようになったのか? それとも……ショック療法とでもいうのかね……クク……あの男が死ぬのはそんなに悲しいか?」
足先でシャロンの身体を仰向けにすると、荊棘と電撃により切れ切れになった薄布が落ち、白く柔らかな乳房が露わになる。
宝条は銃口でシャロンの腹部を撫で付けた。
「ふん……そんなにあの男がいいのなら……ククク……カカ! 一つにしてやろうか? 私はなんと慈悲深いのだ! ……いや、待て、あの細胞を……」
宝条の声が遠くなる。男が何処かへ行ったためか、自分の意識が遠くなったためか定かではない。彼女は迫り来る危険を感じながら、動けぬ身体を呪った。
自分の未来を悲観してか、またはヴィンセントの身を案じてか、シャロンの頬を涙が伝った。