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FFVII いばらの涙 邂逅譚

第3章 いばらの涙


 ヴィンセントは、胸にもたれかかるシャロンの身体を抱きしめ、頭を撫でる。
心臓の音が聞こえてしまいそうな程静かで、時間が異様にゆっくり進んでいるような気がした。         
 シャロンはヴィンセントの腕に抱かれているうち、胸の奥から溢れ出るものが抑えられなくなり、それは涙となってこぼれ落ちた。
静かに泣くものだからヴィンセントは黒いスーツに小さなシミが二粒ほどついてようやく涙に気付き、シャロンの濡れた頬を指で優しく拭い取る。

「怖かった」
「シャロン……」

 ヴィンセントが体を強く抱きしめ、頬を摺り寄せてくる。痛いほどではない、体に感じるその圧迫感が妙に心地よく安心を与えた。
しばらくして涙も止まった頃、ヴィンセントが体を離す。彼女がどうしていいかわからないままに立ち尽くしていると、ヴィンセントと見つめ合う形になる。お互い黙り込んだまま、ただただじっくりと見つめ合う。それはまるで恋人同士がキスをするような、そんな雰囲気で。
けれども、先ほどの彼女は一体……?
一度に様々な情報が呼び起こされる。彼と彼女の関係もわからないが、彼と自分の関係もよくわからない。しかし、彼の手が頬を触れても不思議と嫌な感じはないのだ。

 シャロンがそのまま瞳を見つめていると、ヴィンセントは彼女の額にキスをした。
想定外のことに驚きの表情を隠せずにいると、ヴィンセントはシャロンの反応を確認するように目を合わせ、次に頬にキスをする。再びヴィンセントと目が合うと鼓動が高鳴り、照れ臭さからただはにかむことしかできずにいた。
 彼が少しだけ口角をあげたようにみえたと思えば、また体を引き寄せ、そっと唇を塞ぐ。体の芯が熱くなるような、不思議な感覚が走る。

「んっ……。は……」

 身を任せれば次第に濃くなる口付けに息苦しくなり時折息が漏れる。わざとではない。しかし彼女は漏れるこの吐息がヴィンセントの脳髄を刺激することは直感的に知っていた。ヴィンセントが腕の力を緩め、薄い布に包まれた身体を撫でる。反射的に身体を反らすと、頼りない薄布がずれ落ち、腕が露わになる。白く細い腕に、無数の注射跡。ヴィンセントの顔がほんの少し強張る。

「これは……」
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