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FFVII いばらの涙 邂逅譚

第2章 cradle


 それから半年もすると、二人の距離もかなり近付いた。ヴィンセントの生活も、シャロンがいるだけで幾許か豊かになった。何せシャロンは聞き上手であるから、話すことがそこまで得意でないヴィンセントも自分のペースを乱すことなく会話できた。出張などで忙しなく働くヴィンセントだが、二人が会う時だけは、ゆっくりと穏やかな時間を過ごせていた。

 しかし、月日が経つとまたしても不穏な噂が耳に届く。
ルクレツィア博士とその夫・宝条博士の間に子供を授かっているという話。
目出度い筈の話題なのに、久々に顔を見せたこの男はまた暗い表情をしていた。

「どうしたの? ヴィンセント」
「ルクレツィアが……。その……赤ん坊を実験に使うと……」

 シャロンは唖然とした。
ルクレツィア博士のことを深く知るわけではないが、そんな無茶なことをするような人だとは。
不愉快さまでもがこみ上げてくる。これが血の通った人間のすることなのかと。
 そして、同時に以前のヴィンセントとの会話を思い出していた。相手の人は何を考えているかよくわからない人だと言っていた。まさか、こんなことをしでかしてしまうような人だったとは。

 そしてシャロンは思う。あの時のヴィンセントへのアドバイスは間違いだったのではと。
ヴィンセントがルクレツィア博士の結婚を止めていたら、犠牲になる子供は産まれなかったかもしれないと。

 いや、まだ産まれていないのだ。まだ。
シャロンは扉をトントンと叩き、ヴィンセントの注意を引く。

「止めよう、ヴィンセント」
「しかし、干渉しないと誓った……」
「ルクレツィアのことだけではない、被害者はお腹の中の赤ん坊よ。こんなこと、許されないわ」

 シャロンに諭され、自分がどうするべきか決められずにいたヴィンセントも目を覚ますように顔を上げた。

「行ってくる」

 シャロンは思った。なんて無力だろうと。自分の力では何も出来ない。ヴィンセントのことを思いながら、いつの間にかヴィンセントに全てを負わせている。彼の背中を見送りながら、自分の現状を悲観した。
彼が迷うことがないように、彼が悩まぬように、もっと側で彼を支えたい。ここから出て、彼の側で。話すだけでなく、様々な方法で癒したい。彼女の中に芽生えた自我が彼女を苦悩させた。
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