第10章 叙情詩
内側から光を放ち、砂状に消えていくセフィロスの肉体。
しかし、その存在が完全に消滅したわけではなかった。
『何度でも蘇る』
ふいにその言葉を思い出し、シャロンはセフィロスのいた方角をまっすぐに見据えると胸に隠した短剣に触れる。
「私の剣、一緒にきてくれたのね」
ホーリーが発動された影響か、その場の法則が変わり、彼女は自由に浮かび上がることができた。
やるべきことを確信し、シャロンは上へと飛ぶ。
セフィロスの姿は見えない。しかしその存在が消えたわけではない。その不思議な感覚を信じるままに彼の姿を追った。
その短剣を胸の下できつく押さえ、切っ先を向ける。
「セフィロス!」
シャロンが声を上げると、霧散したセフィロスの体に再び姿が浮かび上がり彼女を振り返る。
姿を現した彼に少しばかり怯んだが、彼女はそのまま彼の懐に飛び込んだ。
反撃すればリーチが長い分セフィロスが有利なはずだった。
しかし彼は彼女の短剣を受け入れるようにして腕を広げ、彼女を抱きとめた。
「どうして……」
「あいも変わらず甘いな、お前は。迷っているうちは私を倒すことはできないぞ」
「私はあなたを倒すわ」
「“殺したくない”と顔に書いてある」
シャロンが身動ぐが、セフィロスはその腕を離すことはしない。
腹部に刺さる短剣が深く押し込まれる。
「離して」
「ダメだ」
「どうしてよ……」
「お前を離せば鉛玉が飛ぶ」
地上では仲間たちが隙を伺うように武具を構え見守っていた。
「私ごと攻撃を……」
「ックク……。揃いも揃って愚か者ばかりだな」
「私の仲間をバカにしないで。ねぇセフィロス……私は愛する人の生きるこの世界を守りたい。そしてあなたに死んでほしくないのも事実よ。目を覚ましてほしいの……ジェノバに操られないで」
深く飲み込まれた短剣から荊棘が伸び、セフィロスの体内を突き破る。
「ちっ……潮時か」
「手ごたえがない……やはり、今のあなたは思念だけで存在しているのね」
溶け出す体の奥で、ホーリーの光がまばゆく光るのを感じられた。
「来い……私を止められると言うのなら」
霧散するセフィロスの思念と連なって、シャロンの思念も砂上に溶け出し宙に消える。
そして二人が消えたことを物語るように、セフィロスの体を貫いた短剣が音を立て落下した。