第10章 叙情詩
彼の背には翼が生え、深紅の装甲を纏った魔神へと変化した。
「カオスか……」
カオスへと変身したヴィンセントは、真っ直ぐにライフストリームの渦の中へ飛び込んだ。
漂うグリーンの筋を辿り奥深くへ沈んでいくと、微かに花の気配を感じて彼は目を凝らす。
「シャロン!」
「ヴィンセントね……」
靄が集まりシャロンの形を成していく。
触れようとしても掴めず、掠めれば残像のように消えてしまう。
「ここにいる私は思念だけみたいなの。肉体は地上に置いてきてしまったわ」
「ボーンビレッジか……」
「ええ……ヴィンセントは、平気なの?」
「カオスの力に守られているのか……私は平気らしい」
触れない程度の距離で顔を見合わせる。
追い詰められて、少し潤んだ彼女の瞳がふいに笑む。
「カオス、かっこいいね」
「……そうか」
無表情の彼が少し照れたように見えるのは、その極端に短い返事と泳いだ瞳のせい。
「そうだ、セフィロスは……?」
「今、クラウドたちが戦っている」
「ヴィンセント、ホーリーを見た? セフィロスが縛り付けているのだけど、樹木を使っているわ。私、なんとかできるかもしれない」
「本当か?」
「ええ。だけど、私は自由に動けないの。ヴィンセントお願い、私をあれと繋げて」
ヴィンセントはホーリーの光の前まで戻ると、花の結晶を取り出し、ホーリーを縛り付ける樹木の枷に打ち付け、銃で砕いた。
シャロンからの唯一の贈り物であったそれを使うことにしたのは、彼女の願いだったからだ。
『私が作った結晶……あれをまだ持っていてくれるなら、それを使って。できるだけ広範囲に……あれを砕いて樹木に触れることができれば、きっとホーリーを解放できる』
銃声に気づいたセフィロスがヴィンセントを狙う。
しかし、クラウドがそれを制した。
「お前の相手は俺だ!」
「全く、うるさい人形だ」
セフィロスはジェノバ細胞に完全に飲み込まれることはなく、セフィロスの肉体に共存する形で変異していた。
7つの翼を持ったセーファ・セフィロスは、完全な形ではないにせよ、その存在は限りなく大天使に近いものとなっていた。
無慈悲な攻撃が続く中、ホーリーに絡みついた樹木がピキと音を立てる。感覚が研ぎ澄まされたセフィロスはその音に反応し隙を見せる。クラウドはその隙を見逃さずセフィロスの胸に剣を突き刺した。
