第10章 叙情詩
森の奥へと歩みを進める。彼がついてくることを確認すると、不安げな口元から彼への問いかけが落つる。
「あなたが戦うのは、私たちの罪から生じた災厄を止めるためなのではないかしら……」
「それも……あるかもしれないが……」
「……きっと、今はそれが正解なんじゃないかな……私たちがしなければならない償いは、セフィロスを止め……ジェノバから星を守る事」
「……そうなのかもしれないな……」
視線を逸らしながらもヴィンセントは肯定の言葉を零す。それを聞いてシャロンは安心したように微笑んだ。
「私も、戦うわ。この世界が好きだから。小さな望みでも、私にしか出来ないことがあるわ……」
「何をするつもりだ……?」
「この木、私を呼んでいるの」
「確か以前も言っていたな……一体誰に呼ばれている……?」
「わからないけど……この木の中にはわたしが本来眠るはずだった柩があるわ」
「待ってくれ」
ヴィンセントが彼女を抱き止める。彼女がいまにも遠くへ行ってしまいそうな危うい存在のように思えたから。
「それが……君の償いだというのか……?」
「勘違いしないで、ヴィンセント。私は諦めているわけじゃない。目的が叶うなら、どんな小さな可能性にも賭けてみたいだけ」
「駄目だ。行かせない……また君と離れ離れになるなど……考えたくもない」
普段相手を尊重して言葉を選ぶ彼がだが、この時ははっきりと自分の願望を口にした。
シャロンの肩を抱くヴィンセントの腕に力が込められる。
彼の動揺は彼女にも伝わるほどだった。肩で息をして、吐息が少し震えていた。緊張感が走る。
「シャロン……私は君を愛している」
「あ……」
「ただ一人……君だけを愛している」
その言葉は、彼女の内に秘めた蕾を花開かせ、彼女の心を溶かしていった。頰を一筋の涙が伝う。
「私も、愛してる。愛してるよ……」
言葉にすると、堰を切ったように涙の雫がぽとぽとと零れ落ちた。
「愛しているから……あなたが、抱えた闇に苦しむ姿を見ているのがつらい」
ヴィンセントの指がピクリと反応する。そして次第に緩む腕。
彼女は彼の腕の中で振り返り、彼の前髪をかき分けて目を合わせると寂しく笑った。
「私達はきっとこれから何百年と生きていく。その時間を、ただ懺悔するためだけのものにはしたくないの」
「私には、君を守る事は出来ないのか……」
