第10章 叙情詩
クラウドが何事かとシャロンを見やると、彼女はくす玉のようなものを宝条に投げつけ、辺りに蜜が降る。そこに炎の魔法を唱えると、蜜を浴びたモンスターの皮膚が一気に高温に晒され溶け出した。
「全体化……。フッ、彼女を守る……それは私の意思だ……。だが、それ以上に大切な、彼女の意思……。彼女を信じ、共に戦う。肉体を守るだけではなく……彼女の意思を知り……支えること。それが私にとっての真の守護なのだ……」
「ヒッヒッヒ……こんな小細工をよくも……。私はな、お前達を見ていると虫酸が走る……だが同時に、科学的欲求も掻き立てられるのだよ! どうだ? お前たちの子供を私に提供せんかね? ヒーヒッヒ!」
シャロンの攻撃も宝条に対してはダメージが浅いらしい。ジェノバ細胞の影響の強さに苦戦を覚悟した三人を横目に、宝条は揺らめきながら試験管を手にする。
「ではそろそろ……魔晄ジュースの効果はどうかな?」
宝条が試験管のジュースを口に含む。肉体が巨大化し、あたりに腐敗臭が漂う。肉体はやがてモンスターの肉片を吸収し、ついに人の形を失った。
よもやこの時すでに宝条が復活の目論見を果たしていたとは誰も想像し得なかった。
巨大な肉体をクラウドの大剣が抉り、ヴィンセントの銃弾が貫いた。
そして最後まで科学者としての欲を探求し続けた男は、北のクレーターのバリアを破壊するという重大なイベントをこなしてついに物語の一線を退いた。
「宝条……永遠に眠れ」
消滅せずそこに横たわる宝条の亡骸に多少の違和感を覚えつつ、彼らは飛空挺へと帰った。
そして、その夜。
シャロンとヴィンセントは、ボーンビレッジへと降り立っていた。
『みんなが何のために戦っているのか、それをわかってほしいんだ』
クラウドの提案で、セフィロスとの決戦前に、今一度自分の身の振り方を考え直す機会が設けられたのだ。
水のせせらぎが辺りを包む。森を静かに歩き進めるシャロンをヴィンセントが追う形でいた。
ふいにシャロンが立ち止まり、振り返らずにヴィンセントに問いかける。
「ヴィンセント……よかったの?」
「何のことだ……?」
「ルクレツィアの処へ行かなくて」
「何故ルクレツィアが出てくる……」
ヴィンセントがシャロンの肩に触れようと手を伸ばすと、それより先に彼女が振り返り、一歩身を離した。
