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FFVII いばらの涙 邂逅譚

第9章 瞳の住人


 薄暗い洞窟を進むと、雫の音の隙間に女性のすすり泣く声が聞こえてきた。

「セフィロス……」
「この声は……」

ヴィンセントが足を早める。声の主はルクレツィアだった。
ジェノバ細胞の影響と、宝条の精神的暴行によって心も体も壊れてしまった彼女は、屋敷から離れた洞窟で結晶化していたのだった。
誰もこんな僻地にルクレツィアがいるなどとは思わない。
洞窟を訪れた時、彼女を見つけたヴィンセントの表情を、シャロンは見逃さなかった。瞳を大きくし、瞬く。滅多に見ることのできない彼の動揺した表情。

「ルクレツィア!」

彼はずっと案じていた彼女に咄嗟に駆け寄ろうとするが、ルクレツィアの拒否の言葉に足を止める。

「来ないで!」

その瞬間、眩い光と共に彼らの昔の記憶が走馬灯のように洞窟内を駆け巡った。
眉間に皺を寄せ、記憶の網羅に耐えるヴィンセントを、シャロンとクラウドは心配そうに見つめていた。
出会い、告白、別れ、実験ー
記憶の追従が終わると、傍で佇む彼らへの説明が必要だと感じたのか、ヴィンセントは自らの手を天井へ向け、そのガントレットを眺め言葉を発した。

「この身体は、私に与えられし罰なのだ……」
「ヴィンセント」
「シャロン……そうでもなければ、この身体は何の意味も持たない、ただの悲劇になってしまうだろう……」

これまでヴィンセントのネガティブな感情に巣食う闇を少しずつ知ってきて“彼は本当は救いを求めている”そう感じていくのに、今は視線を逸らす自分を情けなく思いながら彼女は口を噤んだ。

「私は……ガスト博士や宝条……そして、ルクレツィアを止められなかった……」

ヴィンセントがクラウドに説明するように身体を向ける。

「見ていることしか出来なかった……それが、私の罪……」

クラウドは、ヴィンセントの独白に言葉が見付からない様子で小さく首を振る。シャロンを見れば、腕を抱き苦悩の表情を浮かべていたので彼女は既に知っていたのだろうと察した。

「あなたのせいじゃないのに……。どうして何も言ってくれないの? ルクレツィア……」
「シャロン……。私がいながら、止められなかった……止められたかもしれないのに……」
「止められていたなら、あなたは今頃ここにはいないかもね」
「……どういう」
「なんでもない。起こらなかったことを考えても仕方がないもの」
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