第1章 俺と神
「……おい、大丈夫か?頭…」
「名か…妾に…名がついたのか…!ははははっ!!」
……完全に頭がイっちまったようだ、この神は。
いや、元々イってるか。
奴は俺の手をまた掴むと、間髪入れず上へ飛んだ。
冷たい風が、俺の体に突き刺さる。
雲よりも高い位置。
なのに、俺はなんともない。
いや、寒ぃけどよ。
「はっはっは!!かずや、今日はめでたい日じゃ!妾に名が付いたのじゃ!!妾は嬉しいぞ!」
くるくる上空で踊り回る奴。
どうやら、この神は名前が気に入ったらしい。
まあ、それでこそ考えたかいがあったってもんだ。
店名もじっただけの安易なやつだが。
「これからは、てめぇではなく、神楽と呼ぶがよい!のう、かずやよ!」
「へいへい…」
適当に相槌をうつ。
てか、この状況でなんの抵抗も無いのか?俺は。
飛んでんだぞ?雲突き抜けてんだぞ?
適応力高ぇな、俺。
自分で自分を褒め称えていると、奴…神楽が俺の顔を覗き込んできた。
「かずやよ、何を呆けておるのじゃ?元々そこまでではないが、顔がおかしいぞ?」
「うっせぇな!!てめぇにゃ……」
言われたくねぇ、と言いたいところだったが、俺は神楽の顔を改めて見て、言葉を飲み込んだ。
誰がどう見たって美人と言うであろう、その美貌。
なんだか急に自分が情けなく思えてきた。
「……つか、早く下ろせよ」
「なんじゃ、急に大人しくなりおって。まぁよい。貴様の家まで飛んで行くぞ。家は何処じゃ?」
「あぁ?あっちだよ……って、は?飛んでくって、お前何を…」
「よし!行くぞ!!」
「いや、ちょ、待っ!!」
ギュンっといきなりスピードを出す神楽。
空気抵抗が激しく、上手く息が吸えない。
くっ、首がもげる!!
「お、い…!スピード……落とせっ……!!」
俺は必死に叫ぶ。
ただでさえ息が吸いにくくて喋れねぇうえに、風の音でかき消されて、俺の声は神楽には届いてないらしい。
全くスピードが変わらない。
俺が悶絶していると、急に神楽がブレーキをかける。
身体が飛んでいきそうになったが、なんとか飛ばずにすんだ。
「っはぁっ!!や、やっと息が……おい、神楽っ!てめぇふざけんな!」
「のう、かずやよ。貴様の家は、海の中にあるのか?」
「はぁ?んなわけねぇだろ。何言ってんだよ」
「下、海じゃぞ」
「へ?」