第1章 俺と神
恐る恐る、俺は下を見る。
暗闇の中、月明かりに照らされる、海。
…俺ん家の周り、海あったっけか?
「…てめぇ……どこまで飛んできてんだ…」
「妾は知らぬわ。かずやが止めぬからじゃろう」
「はあ!?てめぇのせいだろが!息できなかったんだよ、こっちは!!」
「そうカッカするでない。かずやよ、どの方向に行けば良いのじゃ?」
何事も無いかのように聞いてくる神楽。
イラつくやら、呆れるやらで、もうどうでも良くなってきた。
俺はスマホを取り出し、ぐー◯るマップを使って現在地と家の方向を調べる。
げ、太平洋出ちまってるじゃねーかよ。
えーっと、こっからだと…西南西くらいか?
「おい、神楽。場所は俺が言うから、ゆっくり!行け」
「ふむ、了解じゃ。では、行くぞかずや」
そう言うと、神楽はゆったりと飛び始めた。
相変わらず寒いが、まともに息が吸えるだけマシだ。
俺は、ぐー◯るマップを見ながら、慎重に神楽に方向を教えた。
それでも何度も道(?)に迷い、ようやく家が見えてきた頃には、もう日の出の時間だった。
「……結局、朝までかかった……」
「おぉ、朝日が綺麗じゃのう。見て損は無いぞ、かずや」
神楽は目を輝かせながら、徐々に地平線から昇ってくる太陽をじっと見つめる。
疲労困憊の状態だったが、その光景に、俺も目を奪われた。
太陽が昇りきる。
一夜にしていくつもの初体験をした俺は、普通に朝を向かえた。
ただ、いつもと違うことは、この神楽が居ることだ。
「かずやよ、貴様の家はどれじゃ?あれか?それとも、これかのぅ?」
「…どれも違ぇよ。あれだ」
俺は、ひっそりと建つアパートを指差した。
その内の一室。それが、俺の寝るためだけの場所だ。
「随分と貧相な所に住んでおるのう。窮屈ではないか?」
「うっせぇな…俺には充分なんだよ。ま、神のてめぇにゃわからねぇだろうがな」
「ぬ、それは心外じゃぞ。妾に分からぬことなどないわ」
「あーそーだなー。つか、下ろせよ」
「妾に指図をするな、かずや」
そう言いながら、神楽は降下していく。
アパートの廊下に足が着いた途端、どっと疲れが襲ってきた。
足元がフラつき、神楽の方によろける。
「大丈夫か?かずや。相変わらず、人間は弱いのう」
「……うっせぇ」
俺の意識は、そこで途絶えた。