第2章 一つめは
社長との話が終わり、階段を降りていたときだ。
「おー、三谷ぃ。おめーも怒られてたのか?」
ニヤニヤ笑いながら仁王立ちしている、笠原がいた。
髪は黒く染め直したようだが、相変わらずワックスで固めているらしい。
随分と固そうだ。
おめー「も」という部分に軽くイラついた俺は、吐き捨てるように言った。
「てめぇと一緒にすんじゃねえよ、笠原。俺はてめぇみたいな、遅刻常習犯じゃねぇんだよ」
「へいへい。そうだな、真面目くん。おめーは俺と違って、優秀だもんなぁ」
はははっと高笑いして、笠原は何処かへ行ってしまった。
見えなくなった奴に、ちっと舌打ちをして、作業に取り掛かった。
時間感覚が無くなってくる頃、小休憩が入った。
汗だくの額を肩にかけてあるタオルで拭う。
そーいや…あいつ見ねぇな…。
そう、ぼんやりと考える自分に驚いた。
何気無く、神楽のことを考えていたのだから。
…ばっかじゃねぇの、俺。
あれは夢なんだ。あいつは存在するはずがねぇ。
首を横に振り、空いている木材の上に思い切り座る。
不意に、頰に冷たい物が当たった。
驚いて振り向くと、先輩がにこやかに立っていた。
「お疲れ、三谷。ほれ」
水滴が光る缶ジュースを手渡してくれる先輩。
あぁ…これこそ正に神だろ。
「あざっす!」
先輩に礼を言って、喉を鳴らしながらジュースを飲み干す。
空になった缶を捨てに行こうと立ち上がった、その時だ。
「のう、かずやよ。貴様何をしておるのじゃ?」
「………ぅおわぁっ!?!?」
聞き覚えのある声、姿が目の前に現れた。
バランスを崩し、ガタタンッと物凄い音を立てて木材の中に倒れ込む。
その音に驚いた先輩、同僚や後輩達が慌てて俺のもとに駆け寄ってきた。
「みっ三谷先輩っ!?!?大丈夫っすか!?」
「無事か、三谷っ!?」
やべぇ、大事になっちまった。
木材の中からどうにか出ようと両手をついた瞬間、右手に鋭い痛みが走った。
思わず顔をしかめる。
「っ……!!!!」
「おいっ!!三谷!大丈夫か!?」
終いには社長までご出勤。
あぁ…なんかもう…ホントすんません…。