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神様の願い事

第1章 俺と神


観衆からざわめきが湧き起こる。
懸命に放水していた消防士たちは、呆気に取られた顔をして建物を見つめている。
俺は、なんの変哲もない、自分の手を眺めた。


「………これ…俺が…やった、のか…?」

「そうじゃ、かずや。貴様に与えた力は、モノを操る力。もちろん、命ある者には効かんがのぉ」

「……すげぇ…」


まじかよ。
ほんとに力を持ったのか。
こんなの、漫画とかアニメとかの世界でしかねぇと思ってた。
俺、今日だけで世界観180°変わった気がするぜ…。


「ほれ、かずやよ!いつまでぼけっとしておる!妾の願いを叶えさせるために、貴様に力を与えたのじゃぞ。早う動け!」

「うっせぇなあ!もう今日は遅いんだよ!!見ろよ、日付変わってんじゃねぇか!良い子は家に帰る時間なんだよ!」

「良い子、というのは、朝早くに起き、三食しっかり食べ、たくさん遊び、たくさん学び、夜早くに寝る、そういう子の事をいうんじゃぞ?知らなかったのか?」


んな事知ってるわ!!
なんでてめぇに説教されなきゃなんねぇんだよ!


「ったく、ジョーク通じねぇ野郎だな。とにかく!今日はやめだ!俺だってねみぃんだよ」

「ぬ!下僕のくせに、主に逆らうのか!本当に躾がなっていないのぉ」

「まともな躾された覚えが無いんでな。…つかお前、名前なんなんだよ」


俺は、ふと思い付いた疑問をぶつける。
すると、奴は急に口を閉ざし、俯いてしまった。

やべ、なんかマズイ事言ったか、俺…。


「……妾に、名など、無い。妾は神…ただそれだけじゃ」


…あぁ、もしかして俺、ブラックゾーン踏み込んだ?
地雷踏んだ?
マジかよ…ったく…


「しゃーねーな、俺がてめぇの名前考えてやるよ」


俺がそう言うと、奴は少しだけ上を向いた。

つったってなぁ…名前……

考えるフリをしながら、チラチラ辺りを見回す。
すると、『カグラミチ』という看板が目に入った。

カグラミチ?すげぇ名前だな。
ぜってぇ神楽坂パクっただろ、これ。
カグラ、ねぇ…?
神って字入ってるし、ちょーど良いか。


「神楽ってのはどーだ?」

「……か、ぐら…?」

「おう。神に楽って書いて、神楽だ。どーよ?」

「神楽……妾の、名…」


奴は、ずっと神楽、神楽、と呟いている。
怖ぇ、めっちゃ怖ぇ。
周りの目も怖ぇが、こっちの方が怖ぇよ。






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