第1章 俺と神
火の粉が俺の所まで飛んで来る。
熱い。これは、夢じゃねぇのか。
所狭しと並んでいる店舗に、どんどん炎が移っていく。
逃げ惑う人。野次馬。誰かが呼んだのか、消防車のサイレンも聞こえてくる。
ゴーッと猛る炎は、薄っすらと瞬く星空すらも呑み込んでしまいそうで、俺はただただボンヤリと見ていた。
俺が現実に引き戻されたのは、ムカつくことに、自称神の自慢気な声が聞こえてきたときだった。
そいつは、相変わらずのドヤ顔で俺を見下している。
「どうじゃ下僕。これで、妾が神だとわかったろう!」
うぜぇ。認めたくねぇ。
けど…
「……こんなん見ちまったら…認める以外…ねぇだろうが…」
「ふふっ、やっと認めたか。さあ、下僕!妾の願いを叶えろ!」
いや、それについて俺は疑問がある。
神だっつーのは、百万歩くらい譲って認めてやろう。百万歩だ。
が、普通、神が人間の願いを叶えるんじゃねぇのか?
そんな俺の疑問を感じ取ったのか、そいつは付け足すかのように言ってきた。
「もちろん、タダではないぞ。妾の願いを無事、三つ叶えることができた暁には!貴様の願いを一つ叶えてやろうぞ」
「対価の差があんだろうが!なんだよ3:1って!おかしいだろが!!」
「いちいち細かい事を言う下僕じゃのう。そういう男は嫌われるんじゃぞ?下僕よ」
「余計なお世話だ!つか、俺は下僕じゃねぇ!三谷和也って名前があんだよ!」
俺ががなると、そいつは優し気な笑顔を見せる。
「ほぉ、そうか。貴様には名があるのか。よいのぉ。ならば、かずや!」
そう言うと、奴は俺の手をガッシリと掴んでくる。
「ちょ、おい!何すんーー」
「貴様に、一つだけ力をくれてやろう。その力を使って、妾の願いを叶えるのじゃ!」
力…?
なんの力なんだ…?
「物は試しじゃ。ほれ、そこの炎に向かって手をかざしてみよ」
「手を…?」
俺は、言われた通り手をかざす。
しかし、何も起こらない。
「おい、何もねぇじゃねえか」
「当たり前じゃ。念じなければ力は使えん。さぁ、念じてみよ。『消えろ』と」
念じるって…なんかの修行かよ。
心の中で毒づきながら、一応念じてみた。
炎に向かって、『消えろ』と。
すると、一瞬の内に炎は凝縮されていき、一つの丸い塊になったと思うと、跡形もなく消え去った。