第3章 岬町と涼介と奏音と。
「あ」
反射的に出たとはいえ、此奴にそんなこと知られて、愉快なはずない。
私はまたも反射的に両手で手を覆った
だが、紀伊を見てみると嫌味な顔も、爽やか笑顔もなく、なんだか初めておつかいに行く我が子をみるような深い新緑の目をしていた。
「ったく......」
(あーあ......また嫌味やらなんやら浴びせられるよ......)
「......行くぞ。」
「......へ?」
私は紀伊がこんなことをするとは思わず、間抜けな顔をして、間抜けな声をあげていた。
私の目の前のクソ生意気なマネは、カットバンの箱をゆっくり投げそっぽを向いていた。
その行動がなんだか可愛らしく、頰が緩む。
だがその様子に「な...なんだよ。」と不機嫌そうにケチつける紀伊はもっと可愛いらしくて、ぐにゃっと歪んだ顔を見られないようにカットバンを足に貼るという理由付けをし、しゃがみこんで顔を紀伊に見られないよう下を向かせた。
だが、ふと紀伊の顔が気になり視線だけを上に向かせる。
彼を見れば顔は真横を向いていたが、眼は確かに横斜め下をむいていた。
なぜか嬉しいという感情が湧き上がってきて顔を紅潮させる。
(此奴ってもしかしてツンデレ?)
(優しくなったときは、涼介って呼んでやろう)
クソ生意気なマネ。
此奴のことが少し気に入った私だった。