第11章 episodeⅠ橘 有雅
「交代、」
「す、ず・・・?」
「お兄ちゃん、ずっと私の代わりに頑張ってくれたもん。お兄ちゃんが一人で頑張ってくれたから私、好きなこと出来てる。」
「・・・・・・」
「今度はお兄ちゃんの番、」
そう言って僕とは違う、華奢で小さな手を目の前に出す。
「はい、バトンタッチ。」
「でも、」
「お兄ちゃん、この日のために私ちゃんと勉強してたよ?大丈夫、パパ達をガッカリさせたりしないから、」
「す、ずっ・・・ごめ、」
「・・・っお兄ちゃん、高校は一緒がいいなあ・・・」
これ以上すずのそばにいたら、決心が鈍りそうで、差し出されたその手に、フワリと触り、部屋を出た。
ごめん、鈴音。ちゃんと強くなって、戻るから。