第11章 episodeⅠ橘 有雅
自分の部屋に戻って、外泊用のカバンをベットに投げつけた。そこへクローゼットから何着かの洋服をグチャグチャに入れる。全ての貯金箱を割り、今ある分だけ財布に詰める。 とにかく無我夢中で。空気ですら濁った息も出来ないこの場所から一刻も早く逃げたくて。
するとゆっくり部屋の扉が開かれる。驚いて、動きが止まった。視線を移した先には、扉から顔だけを出す妹の姿。
「おにい、ちゃん・・・?」
「すず、」
2つ下の鈴音は違う学校に通う小学生。
「どこか、行っちゃう、の?」
泣きそうな声。
「・・・」
その声に、顔に何も言えなくなった。僕は妹を置いて出て行くのか。僕がいなくなったら、すずは、どうなる。
そんな妹から出た言葉は、意外なものだった。
「お兄ちゃん、私大丈夫だよ。」