第8章 恋愛論Ⅶ
「はい、これで全部。」
保健室の先生が細い医療用のピンセットで腕に刺さったガラスをすべて取り除いてくれた。幸い、深く中に入ったものはなくて、学校で治療できる程度のものだった。
「あ、ありがとう、ございます、」
「頑張ったわね、はいテッシュ。」
それでも抜く時の痛みは今まで感じたことのない激痛で、泣かずにはいられなかった。
「消毒して包帯巻いてるから、ゆっくりして、大丈夫になったら帰りなさい。それまでここにいていいからね。」
そう言って保健室を出て行く先生。急に久世と二人きりになる。
いつもなら私の泣き顔を見て嫌味の一つや二つ言っているタイミングなのに、久世は何故か黙ったままで。気になってチラッと横目で様子を伺うと、心配するような目で、私の左腕を見つめる久世。その顔にまたドキっとしてしまう。
「く、くせ、」
「・・・ん?」
「ありがと、う。」
「何が。」
「連れてきてくれて、助かった。」
「うん、」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
また黙ったまま。別に久世が悪いわけじゃないのに。
「で、でもさあ、よかったよね!これが私じゃなくて他の女子だったかと思うと恐ろしいよ!私ケガには慣れてるっていうか、免疫あるっていうか」
この状況に耐えられなくてペラペラと早口で話してしまう。
「ばかじゃないの。」
「はい!?」
「なんで他の女子はだと恐ろしくて、宮原だったら大丈夫なの。」
「あ、えっと、それはですね久世さん、」
「僕は宮原だったから、恐ろしかった。」
「え、」
「言ったよね、みゃあはわかりやすいって。」
「…久世?」
「僕の前では我慢しなくていい。」