第8章 恋愛論Ⅶ
これ以上ここに居ても話がややこしくなるだけだと思い、生徒会室をあとにする。あんなにドキドキしていた先輩に、今や二人きりでもビクともしない私の心臓。どういうことだ。自分でも驚くぐらい、「乙女心は秋の空」なんてよく言ったものだ。
これも全部先輩のお陰だと思う。買いかぶりかもしれないけど、私が気にならないようにしてくれてるんだと、そう思うことにしよう。じゃないとあの暴言は受け入れられないくらい・・・ひどい!なにが鳥肌だ!ツルツルの肌見せつけんじゃないよ!全く!
そんなことを考えながら先輩に腹を立てて廊下を歩く。まさか窓ガラスが割れるなんて思ってもみなくて。
ガシャンッ―――――
「・・・・・・、」
何かが右の腕に当たる感覚、その部分だけが熱くなるのがスローモーションのように、ゆっくりとわかった。
「・・・みや、」
「あ、久世。」
声のした方を振り向くとそこには久世がいた。久世は出没鬼没なのかな。遭遇率が高い気がする、今日この頃。
「・・・・・・、」
普段、表情を表に出さない久世の透き通るような綺麗な肌が、青ざめる。
「ちょ、久世、顔。」
「宮原、おいで、」
久世が私の左手を掴んで歩き出す。その少しの衝撃で右手に痛みが走る。腕には刺さったままの大きなガラス、そこから流れる赤い液体。
痛い。
「おいっ!大丈夫か!?」
「宮原!?」
ガラスの割れる音に職員室から先生が何人か出てきた。周りの生徒から小さな悲鳴が聞こえる。
この大袈裟な状況に眩暈がした。
「先生、僕がそのまま保健室連れて行きます。」
うろたえる周りとは違って、こんな時にも久世は冷静なのか。自分でもこの血の量を見て一瞬怯んだのに、やっぱり凄いな、なんて冷静に考える私がいた。
「あ、ああ、久世、頼んだぞ。」
「はい、」
その久世の声と握られる左手の暖かさに安心した。