第8章 恋愛論Ⅶ
「先輩、私最近久世にドキッとするんですけど、これは一体なんでしょう?」
生徒会室で仕事をする橘先輩の邪魔をするように、今一番の謎をぶつけてみた。
書き物をする先輩。背筋がピシッと伸びていて、これだけをとっても、育ちの良さが伺える。そんな先輩が、機嫌の悪そうな顔をした。
「俺に聞くな。全くもってどうでもいい。」
果たしてこれは血が通った人間の言うセリフだろうか。抑揚もなければ、感情すらない。
「冷たい。」
「喜ぶな、気色悪い。」
決して、喜んでなどおりませんし、第一、そんな変態じゃありません。大体、放課後に一人で生徒会の仕事だなんて。こんなに口が悪くて、性格も悪い先輩、さぞかし寂しいに違いない。
「……先輩、友達います?」
「うん、沢山いるよ?宮原さん。」
先輩がふんわりした笑顔で微笑む。忘れてた。これは皆が知ってる表の顔。だがしかし、先輩の正体は、ただの口が悪いシスコンイケメンなのである。それを知っているのは、私だけ。
「お前さ、気変わるの早すぎ。」
「あれ、先輩。まさかのヤキモ「死ね。」
私達の間にピンクな関係なんてない、そう言ったのは先輩じゃないか。
「久世のこと好きなの?」
「え!?好き!?私が!?久世を!?」
「…は?」
「あ、いや、わっかんない、です。だって私、この間まで、」
「おい、宮原それ以上言うな。見てよコレ、鳥肌。」
夏なのに、長袖のカッターシャツを着た先輩が袖をまくって白い腕を見せる。
「死んでください、先輩。」
その白さとか、毛の薄さとか、乙女の心を踏みにじる言葉とか、色々ムカつくので。
先輩がめずらしく声を出して笑う。
「あ、ちょっと待て、」
「なんですか。」
「ダメ、お前久世を好きになるな。」
「はい?」
「新田はどうする。」
「なんで新田くんが出てくるんですか。」
「お前と新田がくっつかなきゃ意味がない。」
「なんで。」
「変態同士、収まりがいい。俺としても。」
「・・・先輩、まじで勘弁してくれませんか。」
「宮原さん、僕は何でも思い通りにする男なんだよ。」
俺様シスコン二十面相、只今降臨。