第8章 恋愛論Ⅶ
数学の授業が終わってすぐに、私は意気消沈した。死んだ、死にました…さようなら、私の夏休み。
机にうな垂れる私のそばに京ちゃんが近づく。
「ごめん杏、すっかり忘れてた。杏の存在が薄すぎて、昨日居ないことなんて、知らなかった。」
「…いいの、京ちゃん、存在が薄いのは私が悪いから、いいの。」
「ネガティブ全開かよ。」
「…はあ、夏休みのせいで数学オタクになったらどうしてくれよう。」
「馬原くんと付き合えば?」
「な、なに、言ってるの京ちゃん。」
「ごめん、馬原くんに謝ってくる。」
「おい、違うだろ。」
そんな馬原くんを見ると、久世に笑顔で話しかけている。
「久世くん!ありがとう、ホントに助かったよ。」
「いや、僕は何も。馬原くん出来るから。」
「いや、あれは君がいないと無理だったよ。ところで、久世くんは夏休み、何してるのかな。」
「夏休み?なんで?」
「数学研究会に入ってくれない?」
「数学、研究会?」
「そう!君がいれば僕らは無敵だ!数学の楽しさを一緒に学んでいこうよ!」
「うん、馬原くん、残念だけど、夏休みは予定がいっぱいで。」
「あ、・・・そう、なの?」
「うん、補講組だから。」
「え!そんなわけないじゃないか、君がさっきの問題解けないなんてあるわけない!」
久世が補講組?そんなわけない。馬原くんの言う通り。盗み聞きしていると、久世と目があった。
「僕のそばに、手のかかる人がいるから。」
私を見つめ、そう言った久世。その言葉に、視線にまたドキっとする。おかしい、最近久世の言葉に動揺してしまう。
私は久世の言葉に期待してる、のか?