第17章 episode Ⅳ 新田 光
家を飛び出して行く先は駅前のたまり場。
知らない奴らがそこに集まって話しかけられるけれど、特に親しくなる奴なんていなかった。
どうも薄っぺらい奴らばかりで、女は少し話せば彼女気取り。「さっき話してた女は誰?」なんて聞かれて。あなたは俺のなんですか。
こんな小さな場所でも、人間関係は疲れる。はあ、とため息をついて携帯を取り出した。
着信履歴を見つめると、あることに気がつく。
洸の名前で埋め尽くされていたのは、半年前まで。ある時からパッタリ連絡が来なくなった。代わりに今は母親の着信ばかり。
…うっとおしい。
そんな事を考えていると、明るい髪の毛に、スーツを着た20代後半に見える男性が「こんばんは」と俺に近寄る。
「……、」
明らかに怪しそうな視線をその人に送ると、ニッコリ笑って「君、いくつ?」と聞かれた。
「…14、」
「うっわあ、なんで俺14ばっかり引くかな」
と、独り言のように頭をかく。
「……すみません、俺そういう趣味は…」
「ちょ、ちょっと待って!
違うよ、違う!ばか!
俺は女が大好きだっつの!」
「……、」
怪しいその人から遠ざかろうと、立ち上がると「あー、待って!新田光くん!」と名前を呼ばれ足を止めた。
「……何で名前、」
「あー、ごめん。ちょっと調べた」
「調べたって…なに、怖いわ」
「え~!それほどでもお」とはしゃぐいい歳こいたおっさん。褒めてないわ。
「…なんなんですか、あなた」
「あ、ごめんごめん。
俺、水上 涼太(みずかみ りょうた)」
名刺を渡されると、いきなり
「俺の店で歌ってくれない?」と言われた。
名刺には、「restaurant Ryo」と書かれていて。
名刺から視線をその人に戻すと、「意外とオーナーだったりするんだよ、俺」と隠れた八重歯を出して笑った。