第17章 episode Ⅳ 新田 光
ある日、洸が部活で怪我をして「光、肩貸して」と笑いながら一緒に帰ったことがあった。
そしてその数日後、何故か俺が陸上部の顧問から呼び出され。
「…なんですか」
「光、お前洸の代わりに
次の試合出てみないか」
「…はい?」
「双子なら洸の才能も少しは流れてるだろ」
笑いながらそれを言う教師に呆れて声が出なかった。
本当に、アホなのかこいつら大人は。
「先生、
俺練習なんかしてませんし、無理ですよ」
「大丈夫だ、光
お前はすぐに諦める癖がある。
なんでも挑戦してみないとだな」
そうやって、自分らが正しいみたいに。
「先生の監督ミスをなんで
俺が尻拭いしなきゃいけないんすか」
「…光、お前は…なんで洸と違って
そんな考え方しかできないんだ」
始まった。俺、という人間には必ず洸というフィルターがかかる。
「すみませんね、こんなんで」
そう言って背を向けると「光」と怒鳴り声をあげられたので、イラつく気持ちが思わず行動に出てしまい、職員室の扉を強めに閉めた。
そんな日の夜は、決まって洸が気まずそうに近づいてくる。
「なんだよ、気持ち悪いな」
「…光、怒ってない?」
「…なにが」
「…なんか、言われた?顧問に」
「…ああ、あれか。いつものことだし」
「光、ほんとにごめ「うっとおしいな」
いらない、そんな気遣い、なんでお前に。
胸の奥で煮えたぎる想いを飲み込んだ。
「……もおいいから、早く行けよ」
「光、」
呼び止めるようなその声を待たずに部屋の扉を閉める。
洸の顔なんて見たくもない。