第17章 episode Ⅳ 新田 光
「光、バンドとか組んだらいいのに」
帰り道、いつものように光に呼び止められて、一緒に帰る。
だからなんで中1にもなって兄貴と帰らなきゃいけないんだ、と思いながら。
「は?何言ってんの?」
「歌、上手いからなあ光は」
「同じ声だわ」
「違う違う全然違う、俺リズム感ないもん」
自然と人を褒めるのはこいつの特技。嫌み無く、笑いながら言えるそれは余裕のある奴ができること。
「…あほか、嘘くさい」
「クラスの女子が言ってたよ?
光のこと格好良い、て」
「それがバンドと何の関係あんだよ」
大体、「格好良い」なんて。それは回りくどくお前のことを言ってるわけで。
ほんとにバカだ、俺の名前使って、お前に好きのアピールしてるだけだって気づけよ、バカ。
「バンドって光にピッタリだよ。
俺、光の声好きだもん」
「洸と違って俺は何にも出来ませんし」
「何言ってんの、光は俺より出来るじゃん」
こいつ、バカか。ほんとにイラつく。何その余裕発言。気持ち悪い。
「ほんとにうるさいな、お前」
「なんで怒ってんの」
「怒ってない、うっとおしい」
まだ子供だった。
近すぎる洸ばかりが輝いて見えた。
羨ましくて、そうなりたくて、でもなれなくて、そう思っているなんて知られたくなくて。
自分でもその素直な思いに気付かずに、ただただ、洸のそばにいたくなかった。
洸がいるから、と洸のせいにしてどんどん卑屈になっていく。
底無し沼のようにドロドロその気持ちに足を取られて溺れていった。
自分を見てくれる人はいない、そう思って。
そのくらい俺の世界は狭くて。