第3章 恋愛論Ⅱ
「はい、ここまで」と私にゴミ箱を渡す久世。そこは丁度、先輩のいる焼却炉からは見えない位置で。
「ありがとう、久世」
「いいえ、どういたしまして」
背の高い久世を、決して濃くはない上品な顔立ちを見上げて思った。この口さえなければなあ、なんて。
「久世ってさ、恋とかしないの?」
「宮原の唐突さって、
もはや憧れに値するよね」
「そ、そんなとこ憧れないで下さい」
「じゃあ一体何の話」
「だから、恋愛の話」
「ああ、スタンダールの
『恋愛論』なら読んだことあるけど」
「…す、すた」
「スタンダール。
17世紀のフランスの小説家」
そんな人、生まれてこのかた一度も聞いたことないんですが。
「久世さん、
相変わらず人とは違う趣味をお持ちで…」
「人と違う?なにそれ、僕を褒めてんの?」
「…1回脳ミソ見せてもらってもいいですか?」
「いいよ、見せ合いっこする?
僕も宮原の生ぬるい思考回路には
興味がある」
この熱い季節に、汗1つかかず涼しい顔がよく似合う。
そんな久世は難しい本が大好きです。