第14章 episodeⅢ 小出政親
ゆなちゃんと別れて、補講に間に合うように学校へ行った。校門をくぐって、グラウンドをダラダラ歩いていると大きな声が聞こえた。
「まさちかぁーお前今何時だと思ってんだよー!」
名前を呼ばれて、そちらを見上げる。校舎の3階の窓際から、上半身を前のめりにして手を大きく振り笑う短髪の男。大里 時也(おおさと ときや)。その後ろにはいつものメンツが2人、泉 瞬(いずみ しゅん)と三笠 淳(みかさ あつし)。
何時?制服のポケットに突っ込んだ右腕を出して時間を見ようと思ったが、…しまった時計を忘れた。まいったな。
「…トキヤぁ今何時?」
少し声を張って3階に叫ぶとトキヤのあははっというバカな笑いが校門に響き渡った。
「お前ボーッとしすぎ!もう15時よ!あと1限で授業終わりなんすけど!」
「チカ、次浅井の授業。」
トキヤとは違い、小さなこえでボソボソ話すのは隣にいるシュン。
「…しゅーん!なんて言ってるかわかんねえ!」
「…だから、次浅井、「しゅーんっ!聞こえないー!」
「だから、」
隣に立つ背の高い三笠がシュンの口を抑え、代わりに答える。
「次浅井の授業だから、早く来いって。」
「三笠、りょうかーい。」
顔の小さなシュンは三笠の手でほとんど隠れてしまったが、少しだけ見える不満そうな視線から、表情が読み取れた。
シュンはその大きな手を剥ぎ取るようにして、三笠を睨みつける。
「俺のセリフとらないで。」
「おいおい、機嫌悪くなんなよシュン。」
シュンよりもだいぶ背の高い三笠が、ポンポンと不満げなそいつの頭を触る。
「しゅーん!ありがとねー。すぐ行くー。」
「ん、」
高校2年、この生活に何も不満はなかった。友達もいて、まあ遊べる女の子もいて、適当に学校に行って、先生達からワーワー言われて、どうでも良くなって、あいつらが笑わせてくれて、それの繰り返し。
なんにも不満なんてなかった。