第13章 恋愛論XI
「…ふふ、」
私たちのやり取りに篠崎さんが口を抑えて笑う。
やっぱり篠崎さんって可愛い。それは京ちゃんと同じで、久世のおかげなんだろうか。
口に入れた焼きそばは美味しいはずなのに、喉の奥に何か引っ掛かるような、ツンとする痛みを感じた。
そんなことを思っていると、諸星くんが真剣な顔つきで篠崎さんを見た。
「篠崎、」
「…え、あ、はい!」
驚いたように目を真ん丸くする篠崎さん。
「お前、そうやって笑ってる方がいい。」
ビッグスマイルで篠崎さんに白い歯を見せる爽やか馬鹿なサッカー少年。その途端、篠崎さんの顔が今まで見たことないくらい赤くなって、その大きな目に涙が溜まる。
「…え、ええ?えええええ!?」
あの諸星くんが動揺している。
「あ、え!なんで!わりぃ!俺なんか言った!?く、久世ぇ!」
久世に助けを求める諸星くんも泣きそうな顔をしている。そんな諸星くんを見て、久世が篠崎さんに微笑んだ。
「…ごめんなさい、私…」
「よかったじゃん。」
「…久世くん…。」
やっぱり篠崎さんの顔は恋する乙女で、その視線の先にある久世は特別篠崎さんに優しくて、そんな光景を見せつけられた私は馬鹿みたいに寂しくなった。
京ちゃんは私が久世のことを、なんて言ったけどこんな気持ち、私は知らない。久世に対する気持ちが、先輩の時と同じものなら、こんな気持ちになることなんて一度もなかった。
好きって気持ちは楽しいことだらけだったはずなのに。
この嫌な、悲しい気持ちは一体なんなんだろう。
夏なんて、早く終わってしまえばいいのに、
なんて私だけが思っていたに違いない。