第12章 episodeⅡ日向 京子
「あ、見て、チカちゃんバスケしてるー。」
「うわ、超楽しそうなんですけど。」
「まじだ、どうしよう、めっちゃ可愛いー。」
昼休み、私の後ろで黄色い声を飛ばす女子三人。右から金子さん、松浦さん、重井さん。…よし、ばっちり。
入学して半年、クラスメイトの名前はもちろん、全学年の生徒名、そして教員名まで覚えてしまった私。あんなに苦手だった、人を覚えることが、いつの間にか気持ち悪いくらいの特技になってしまった。どこに活かせばいいの、これ。
「ちょっとあんた、26のおっさんに可愛いってどうなの。」
「26はおっさんじゃありませんー!」
「だって11個も違うじゃん。」
「でもチカちゃんは違うくない?」
「もー好き過ぎてヤバイんですけど~。やだ、笑った!」
「八重歯やば!」
最近気付いたこと、それは小出先生が『チカちゃん』というあだ名で呼ばれていること。
先生なのにチカチャン、なんてフレンドリーすぎるあだ名で呼ばれ「なあに、」と普通に返事をする数学教師。この学校は一体どうなっているんだ。
窓の外を見るとクラスの男の子数名、そして小出先生。ネクタイを外し、ボタンを1つ開けて袖を捲って笑う先生は凄く幼く見えた。