第12章 episodeⅡ日向 京子
その声に顔を上げる。
「…小出、先生、」
名簿を片手に持った先生が、ポケットに手を突っ込んで教室に入ってくる。
「お、正解!偉いね、よく覚えてる。」
「でもまだクラスメイト全員は」
「いいの、いいの、段々覚えるから。」
「……。」
「なに、どうしたの。」
「…あ、いえ、なんでも。」
先生の言った「段々」それは「徐々に」の意味で。「ゆっくり」の意味で。学校は行き急ぐイメージのあった私には、違和感のある言葉だった。「頑張れ頑張れ頑張れ」の世界。それが私にとっての学校生活。
先生の言葉に止まってしまったのは、驚いたから。そんなこと言う先生が、この学校にはいるんだと。
「何してたの、日向。」
「…特に何も。」
「へえ、」
「帰りなさい、て言わないんですか。」
「なんでよ、一人で考えるこういう時間も必要よ?」
「……、」
小出先生の言葉は違和感でいっぱいだ。そんな先生だから言えたのかもしれない。何か、違う、拍子抜けしちゃうようなことを期待したのかもしれない。
「先生、なんで学校はつまらないんでしょうか。」
「つまらないの?」
「はい、なぜ学校に来なくては行けないのか、わかりません。」
「そっかあ、日向は学校嫌いなんだあ」
「……、」
勉強なら家でだって塾でだってできる。なんでわざわざ、わからないことだらけのこの小さな社会に足を踏入れる必要があるんだ。