第19章 眠れぬ夜に

「血…そう、血です…。」


「まさか、山南さんまで血に当てられちまったのか！？」


山南さんは、俺の血が付いた手をぺろりと舐める。


…ん？舐める…？


「山南さん！？俺の血なんて舐めても美味しくないですよ！？」


「今そんなこと言ってる場合じゃねーだろ！」


「血を…あなたの血。」


まるで、もっと寄越せと言いたげに俺を見る山南さんの口元は…真っ赤に染まっていた。


「ちっ…仕方ねぇ。」


新八さんが舌打ちしながら刀に手をかけたのを合図に、みんなも抜刀する。一君は居合いの体勢をとっている。


俺と千鶴ちゃんが息を呑むと、左之さんが槍を構え、一度にかかるぞ。と言った時だった。


「待て！」


土方さんからの制止の声。
そして、山南さんからまた苦しげな声が漏れる。


「ぐ、ぐぅぅ…がぁぁ！」


頭を抱えたまま膝をつく。髪の色は元通り、白から黒へ…。


「…山南…さん？」


俺は、恐る恐る声をかける。


「山中、君…。私は、一体…。」


「…良かった…いつもの山南さんだぁ…。」


ほっと安堵のため息をつく。山南さんは、死んだ隊士の遺体に目をやり、


「そうか、私も彼のように…。」


「なんなんですか、この騒ぎは！？誰か説明してちょうだいっ！」


突然甲高い声が聞こえた。
みんながハッとなって振り返るといつの間にか伊東さんが部屋の前に立ち尽くしている。


他の幹部を見回していた伊東さんの目が、山南さんに止まり、


「さ、ささ、山南さん！？あ、あ、あなた、死んだはずじゃ！？」


「ま、まぁ落ち着いて伊東さん。明日、お話しますので、今夜はこの辺で。」


ささっ、こちらへ。と、廊下へと無理やり押しやる近藤さん。