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相合い傘

第1章 戦国無双4/藤堂高虎


「これは高虎殿!... ... お連れの方は?」


急に高虎の足が止まる。
俯いていた珠実は気がつかなかった。
目の前にいるのは城の家臣だ。
珠実は咄嗟に首に巻いた手拭いを鼻の辺りまで覆い、高虎の背中にしがみついた。


「こんな雨の日にお会いするとは、奇遇です。妹が俺に会いに来ているのですが、人見知りでして。すみませんな」

珠実の胸を通して、熱い心臓の鼓動が高虎に伝わる。
高虎の鼓動が、背中から珠実に交じり合う。

2人の鼓動は、速くなっていく。
珠実は傘に落ちるボタボタという雨の音を聞きながら、ひたすら時が過ぎるのを待った。






「... ... では、またお会いしましょう」




男の足音が遠ざかる。
音が聞こえなくなっても、珠実はしばらく高虎の温もりにしがみついていた。

「もう、大丈夫です」

珠実は恐る恐る手の力を緩め、高虎の背中から離れる。
辺りには誰もおらず、ほっと胸を撫で下ろす。

「高虎、ありがとう。この手拭いと、演技のおかげね。助かりました」


彼の温もりが、まだ珠実の胸に残る。
家臣は去ったのに、胸の高鳴りが収まらない。

まだ、あなたの鼓動と溶け合っていたい。







高虎は、珠実の黒く艶やかな髪を撫でた。触れたいという思いが、伸びる手が、止まらなかった。
珠実はどきりとして後ずさる。背中に冷たい雨が当たる。
高虎は自身のしくじりに、慌てた様子を見せる。
申し訳ございませんと、傘だけを差し出した。
高虎が雨に濡れていく。
2人は雨の中見つめ合う。
互いに、揺らいだ瞳で。


「奥方様」の私が、本能のままの「私」になりたいと願っている。

今ならば、羽ばたけるんじゃないだろうか。

あなたという止まり木で、ほんの少し、休ませてください。

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