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相合い傘

第6章 おまけ/SSリレー


虹は希望をくれる。
私の心の雨を晴らす虹のようなあなたに、溺れてしまいたい。




「七変化」




その日の宴は盛大だった。
京で人気の芸者が上杉に参上している。
私も遠くでそれを覗いた。
芸者がくるくると姿を変えていく様が不可思議で美しい。
上杉家当主の景勝も、その右腕の兼続もいつになく楽しみ、酒も進んでいるようだ。



私は間者だ。
主の命令とあらば、誰の命を奪うことも厭わない。




火照りを冷ますため宴の席から出てきたのは、直江兼続。
切れ者、要注意人物。

「珠実!中に入ろう。京の芸は滅多に見れるものではない」

彼はとても楽しそうだ。酒で顔を赤らめている。

「い、いえ。私は騒がしいのが苦手なのです」












今も彼の本当の色が解らない。

彼との初めての出会いは戦場だった。
敵として現れた彼は口数少なく、景勝の目の前にはだかる者を切り、非情な人だと思っていた。

戦場で顔を覆っていた布を剥ぎ、命により世話役として上杉に潜入すれば、民は皆、陽気な彼を慕っていた。

一緒に田植えをした晩は、民一人ひとりに酒を注いでいた。
私にも、笑顔で。
その優しさが、ずるい。


いつでも義と愛を語る。


と思えば、たまに縁側で、月を見ながら憂いの色をたたえ物思いに耽っている。

彼を知るほど、色々な彼に惹かれていく。
彼の側で、彼をもっと知りたい。
彼に心底、尽くしたい。















兼続は満面の笑みで、私の手を引き座敷へ連れて行こうとする。
そのとき彼は酔いが回り、よろけて廊下から落ちそうになる。
珠実はとっさに体が動き、彼を支えた。
酒の匂いに混じり、良い匂いがした。
華奢にみえるその体は、逞しい。


「すまない。酒に酔ったようだ」


いけない。胸が熱い。
珠実は立ち去ろうとする。


「待て、珠実」


名前を、呼ばないで。
兼続はふらふらと珠実の腕を掴み、後ろから抱きとめた。

「兼続様?」


彼の精悍で整った顔が、肩の上に、すぐ側にある。
彼は私の耳元で囁く。


「... ... 今の動き、ただの世話役ではない。あなたは、何者ですか」





私は、敵だ。
あなたの前ではただの女に変化してしまう。
私をこれ以上、導かないで。




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