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相合い傘

第5章 短編詰め合わせ✳︎


牧は床に座りストレッチを再開する。
珠実はボールを持ったまま、牧の隣に座った。

「ドキドキ、しちゃった。牧くんのプレー。ファンになっちゃった」

牧からパスされたボールを、ぎゅっと抱きしめる。

「... ... 奇遇だな。実は俺も、珠実のテニスを知ってる」

「え?」

「1年の夏、ランニング中に見かけた。1人、球がずば抜けていた」

珠実は何も言わず牧を見つめた。
牧は体を伸ばしながら遠くを見つめ、あの日の光景を思い出している。
珠実は胸の高鳴りが収まらない。

「どんな奴が打つのかと思って見たら、色白。お前は1人だけ、テニスコートで目立ってるぜ」

牧は珠実を見つめる。



「俺はそのときから、お前に惚れている」



ギラリとした目に捉えられ、珠実は彼から目が離せない。
頬が赤く染まる。
突然のことを理解できない。
彼の目の輝きだけを、なんとか捉えている。

珠実は逃げ出すように、牧から目を逸らした。
逃げ出そうと、立ち上がろうとした瞬間、牧に腕を掴まれる。
その弾みで、珠実の手の中にあったボールは転がってゆく。

獲物を決して離さない、彼の瞳から逃れることは出来ない。
その表情に、曇りはない。


「俺は全国で必ず優勝する。それができたら、俺の女になれ」









珠実は動けないままに、彼をただ見つめていた。
彼に全てを、支配されていた。



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