第5章 短編詰め合わせ✳︎
「さっきのシュート!すごいね。牧くん」
「... ... 何がだ?」
「力強くて早いのに、放物線がブレない。力に頼るんじゃなくて、努力したシュート。私、すごく好き」
「ほう、大したもんだな。だが俺よりシュートが上手い奴はうちにいるぞ」
「牧くんより?さすが『常勝』チーム」
2Fのフェンスに飾られた「常勝」のスローガン、チームカラーの紫の旗が、珠実の目に差し込んだ。
珠実は、転がっていたバスケットボールを手にする。
「最初、牧くんは絶対バスケ部じゃないと思ってた。肌が黒くて」
「珠実こそ、テニス部には見えない」
「焼けない体質なんですー... ... 今なら教室にいたってすぐ想像できる。牧くんの、バスケしてるとこ」
珠実は下手なドリブルで、ゴールへ近づきシュートした。
スカートがふわりと舞い上がる。
雑な放物線は、ボードに当たり跳ね返る。
床でボールの弾む音が響く。
「珠実は、雨の日も走るのか」
「うん。日課なんだ」
珠実はボールを拾い上げた。
ゴール前、四角いラインまで戻り、ダムダムとボールを弾ませる。
「走りながら、全国の決勝戦を想像する。走って、走り抜いて、最後に勝つ」
「ほう」
珠実は再びボールを放つ。
ボールはゴールに吸い込まれる。
珠実はよし、とガッツポーズを決める。
「... ... 1日でも走るのを欠かしたら、後悔する」
珠実は昨年のインターハイ、個人戦。
ベスト16の成績だった。
体力不足が、原因だった。
珠実は転がるボールを拾おうとした。
すると横から、牧がするりとボールを攫っていく。
そのまま反対ゴールへ向かいドリブルをし、敵を交わしながら、最後に決める、ダンクシュート。
目が、離せなかった。
胸が、ドキドキした。
「すまん。珠実の話を聞いていたら、つい体が動いちまった」
牧はボールを持ちながら珠実に近づきパスをした。
ボールはふわりと手に収まる。
優しい、パスだった。