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相合い傘

第5章 短編詰め合わせ✳︎












牧は困っている珠実の様子に柔らかく微笑むと、頭を撫でた。
珠実は、撫でられたところが熱くなる。

「すまない、急に変な事を言って。俺が悪かった」

牧は立ち上がる。転がったボールを大きな掌ですくう。

「そろそろ練習を始める。互いに、勝とうぜ。インターハイ」

牧はボールをしなやかに弾ませる。

私の頭の中を、感情がぐるぐると廻っている。
彼はもうそんな色事、考えてない顔をしている。
牧くんは、強い。
さっきまですぐ側にいた彼が、遠くへ行ってしまう。
そんなことを考えると、胸がざわついた。




後悔は、したくない。




「牧くん!」

珠実は勇気を出して立ち上がる。
牧は動きを止める。珠実の次の言葉を待つ。



「さっきの話... ... いいよ。だけど、条件がある」




彼を見つめる瞳は、強い輝きを、放っていただろうか。





「私もインターハイで優勝できたら、牧くんの、彼女にさせて」





牧は掴んでいたボールを手放し珠実に駆け寄ると、そっと抱きしめた。
牧から漂う、汗とは違う良い匂いが、胸をキュンとさせる。
彼の体温が、熱い。



牧は焦がれていた女の頬を、そっと撫でる。
そのままあごを、ぐっと持ち上げる。

2人は見つめ合う。
しばらくして牧は手を、そっと離した。

「... ... この続きは、楽しみにとっておく」































外では雨が降り注ぐ。
体育館、ドアの前。渡り廊下に座り込む2人の影。

「牧さん、やっと言えた」
「神さんよく聞こえますね!俺、雨の音で全然聞こえなかったすよ... ... さすが地獄耳」
「今、なんて?」
「いやー、俺も狙おうと思ってたのになー!珠実さん。あれじゃ美女と野獣っすよぉ... ...」
「今日の夜練からは、一層厳しくなるだろうね。牧さん」
「そっすね。決めた。俺は絶対牧さんを優勝させる」
「ああ。俺も決めた」





2人はドアを開けた。

「夜練、お願いしまーす!」





END
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