第5章 短編詰め合わせ✳︎
「そろそろ帰るか」
バーを出ると、外では雨が降っていた。
「俺は走って帰るけど、傘、あるのか?」
「うん。折りたたみがある」
嘘をついた。
これ以上、心配をさせたくなかった。
「そうか。じゃあ、またな。俺も応援してるぜ!」
「うん」
珠実は空を見上げた。
曇天の空からは、大粒の雨が降り注いでいる。
まるで私の心を、打ちつけているようだ。
夢を叶えられない私。
期待に応えられない私。
こんな私、嫌い。
先のジタンの優しさが蘇る。
こんな私でも、魅力があると褒めてくれた。
応援してると言ってくれた。
逃げ出したいよ。
夢を諦められたら、どんなに楽だろう。
あなたなら、なんて声をかけてくれる?
「ジタン!」
走り出していたジタンに向かい、大声で駆け出した。
私の声に気づいた彼は、雨の中振り返る。
彼の胸に飛び込んだ。
「ジタン、今日は、側にいて」
ジタンはそっと、濡れていく珠実の髪を撫でる。
「... ... 俺がたまの夢のための逃げ道になれるなら」
珠実をぎゅっと、抱きしめた。
「いくらでも抱いてやる」
この心に降る雨が止んだら、また私は夢の続きを追いかけよう。
それまでどうか、側にいて。
END