第3章 戦国無双/石田三成
三成は、清正と正則に石高を与え、豊臣の世を守る強固な壁を建てたかった。そのために2人を重要な地方に派遣することを秀吉に進言した。
2人は、三成の想いを理解していたのかもしれない。しかし友にすら相談せず我が道を行く、協調しようとしない三成のやり方では豊臣の世を守れないと、やがて三成に背いてゆくこととなる。
その夜、珠実は改めて三成の部屋を伺った。
三成の想いを、この耳で聞きたい。
大切な人を支えるのだと、あの日誓ったから。
部屋には三成1人。
夕暮時と変わらぬ姿勢で、ひたすらに筆を動かしている。
「三成、今日は、ごめんね」
「お前は謝りすぎだ」
「清正は、ちゃんと解っていたよ」
三成は、動かしていた筆を止める。
ふぅとため息をついた。
「お茶、煎れるね」
珠実は囲炉裏で湯を沸かし、茶を煎れる。
夏の日でも熱い茶を飲むと、胸がほっとする。
「お前の煎れる茶はうまい」
「三成様には敵いませんけどね」
春、桜が舞う中、4人で茶会を開いたことを思い出した。
秀吉様の「武士の嗜みは知っておいた方がええ」との鶴の一声が始まりだった。
正則の作る茶も作法もあまりにも雑で、3人の指導が始まった。
正則がダメ出しに耐え切れずに暴れ出して、結局桜の下で大乱闘。
私が正則を止めなきゃってあわあわしてたらすっと三成が来て、せっかくの茶葉がもったいないと茶を煎れてくれた。
繊細で、優しい味がした。
今となれば楽しかった思い出に、顔がほころぶ。
三成は珠実に見入っていた。
燭台の灯りしかない部屋は仄暗い。
微かな光の中に映る珠実は儚げで、失いそうな感覚になる。
「ちょっとね。悔しかった。三成の考えていること、清正には解って、私には解らなかった」
「当然だ。俺たちとお前は違う」
三成は、気が付いた。
また、珠実を傷つけたことを。
珠実は、悲しみを湛えた瞳で三成を見た。
「その、お前はすぐ転ぶだろう。知らない奴の事もすぐ信じる」
更に珠実が落ち込んでいく。
下を向いて、手に持つ湯のみをじっと見つめている。
「すまん。そんなことを言いたかったのではない... ... 珠実、外にでないか」