第3章 戦国無双/石田三成
その後秀吉の軍は、四国、九州を平定した。
朝廷から豊臣の姓を賜り、秀吉の天下統一は目前であった。
夏。
外ではヒグラシが鳴いている。そろそろ日が落ちる頃だ。
その日珠実はいつものように、台所に立っていた。
汁物や白米からは湯気が立ち上り、あとは味を整えれば完成である。
誰かが走ってくる音がする。
正則が、お腹を空かせてつまみ食いにでも来たのだろうか。
後ろの床がギシリと軋む。
「たま!」
おねね様だった。
話によると、秀吉様の命により三成が、正則には中国の地を与え、清正には九州の地をそれぞれ与え、その地に赴くように伝えたそうだ。
それが本当ならば、3人は離れ離れになってしまう。
3人は、ずっと一緒だったのに。
「おねね様... ...」
ねねはこくりと頷く。
珠実は駆け出した。
三成の元へ。
三成はきっと抗議しただろう。
止められなかったのだろう。
珠実は足がもつれそうになりながらも、三成の部屋へと辿り着く。
障子を思い切り開ける。
バタンと大きな音がする。
「... ... うるさい。なんだ」
三成は珠実の顔を見なくとも、誰が来たかは解っていたようだ。
三成の側には書状の山。溜まった政務。
三成は机に向かって筆を動かし続けている。
「あ... ... こ、こんにちは」
側には大谷吉継が、壁に寄りかかり座っている。
三成の親友だ。
「ねぇ三成。何があったの?」
「何がとはなんだ」
三成はときどき筆を墨につけ、手を動かし続ける。
「清正と正則のこと!3人で、秀吉様を守るんじゃなかったの!?」
「そうだ」
「答えになってないよ!三成」
「お前の言う通りだ。それが答えだ」
顔色一つ変えずに手を動かし続ける三成の態度に、珠実は震えた。
「三成の馬鹿!」
珠実は障子を開け放ったまま、三成の部屋を去る。
「三成。その態度は良くない。また誤解を生むぞ。あの子は涙ぐんでいた」
吉継は立ち上がり、開け放たれた障子を優しく閉める。
「... ... そうか。だが真実に、変わりはない」