第3章 戦国無双/石田三成
普通の話をしながら、2人は城の門前まで到着する。
門番も雨のせいで早めに引き上げたようだ。辺りには誰も見当たらない。
閉じている門を開けてもらわねばならない。
珠実が守衛のもとへ行こうとするが、三成の足が動かない。
「どうしたの?」
「実は俺も、先ほどの1番雨が鼻の頭に当たったのだ」
珠実はどきりとする。
三成は、真っ直ぐに珠実を見つめる。その瞳が揺らいでいる。
「俺はやっと、両想いになれたのか?」
三成は、珠実の頭にそろりと手を伸ばす。
頬の横を流れる髪を、てっぺんから毛先まで、長く綺麗な指がするりと撫でる。
「わ、私は... ... 」
珠実は頭が真っ白になり、三成の言葉が脳で何度も繰り返す。
先ほど抱き止められた瞬間こび付いた、彼の匂いが鼻から離れない。
彼の体温を思い出す。
雨の日の傘の下は、世界がまるでたった2人だけのものと錯覚させる。
珠実の返事をもらわぬまま、三成はすっと彼女に傘を渡して守衛の元へ向かった。
珠実は1人立ち尽くす。
先ほど見つめ合った時間は、いったい何秒間の出来事だったのだろう。
まだ余韻が残る。2人ぼっちの世界。
「おーい!たま!三成!」
後方から駆けてくる正則と清正の声が聞こえる。
ちょうど門が開く。
「たまも三成も、風邪ひいちまうぞ」
そのまま城の中へ駆け込んでいく2人。
2人が走る後に、地面から水しぶきが舞う。
バシャリという音が響く。
まだ雨の中動けぬ私を置いて、三成は先に行こうとする。
「... ... ぼーっとするな。皆が待っている。行くぞ」
先ほどの彼との2人ぼっちの時間は、雨の中に見た夢だったのだろうか。
「う、うん」
私は彼の元へ歩き出した。
相合傘をしようとするが、彼は差し出した手を払いのけ、1人雨に打たれていた。