第3章 戦国無双/石田三成
胸が熱くなると、体が言うことを聞かない。
珠実はまた足をおぼつかせ、転んだ。
三成は、まるで転ぶことが解っていたようにしっかりと珠実を支えた。
正則のがっしりとした体とは違い、華奢なライン。だけどもしっかりと鍛え上げられたしなやかな筋肉に、珠実は包まれる。
「あ... ... ごめん」
「お前は謝りすぎだ」
また怒られた。自分が嫌になる。
珠実は顔をあげ、三成の顔を伺う。
栗色の髪から覗く、整った顔立ち。
幼い頃から一緒だった三成は、こんなに美しい顔をしていただろうか。
そして自身の志を真っ直ぐに貫くその瞳。
その目と、目が合う。
彼に自身が飲み込まれてしまうような感覚。
いいや、飲み込まれたい感覚。
珠実の目の前が揺らぐ。
「... ... 立てるか」
はっと我に返り、体制を立て直す。
初めての感覚に、酔いしれた。
歩き出す2人の元へ、天からの贈り物が届く。
雨がぽつんと、珠実の鼻の頭についた。
雨は次第にぽつりぽつりと降り出した。
商人は売り物を中にしまい始める。
「三成、雨だよ。走ろう!」
珠実は走り出そうとするが、三成に腕を掴まれた。
「待て。また転ぶぞ」
三成は民に1本の唐傘を借りた。
「俺はいい。差していけ」
傘を差し出す三成。
三成が入ってと、傘を突き返す珠実。
押し問答の結果、2人は相合傘をして帰ることとなる。
雨が傘に落ちる音が響く。
傘は背の高い三成が持ち、珠実はその腕に手を掛けていた。
三成が、また必ず転ぶから掴んでいろと言うからだ。
うんと素直に答えたものの、先ほど感じた揺らぎのせいか、彼に触れると妙に胸がドキドキする。
普通でいればいい、と自分に言い聞かせる。
「あのね」
何か普通の事を話そう。
「さっき、1番雨が鼻の頭に当たったの」
昔おねね様に聞いたおまじないを思い出した。
「最初の雨が鼻の頭に当たると、好きな人と結ばれるんだって」
「くだらんな」
「くだらなくないよ!おねね様もね、秀吉様とね... ... 」