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相合い傘

第2章 戦国無双/織田信長


それから月日が経ち、信長は青年になる。
彼が城下に降りてくる事はなくなり、軍略や教養のお勉強と稽古に明け暮れている。


同じく歳を重ねた珠実は、暇さえあればこっそりと信長に会いに行くのが日々の楽しみだった。
この時代ならばとっくに嫁に行く年頃。
彼を想う気持ちが、邪魔をした。



その日も雨が降っていた。
珠実は傘を差し、信長に会いにいく。
雨だから、外にはいないかもしれない。会えないかもしれない。
でも会いたい。だから会いに行く。


信長から教えてもらった抜け道を使い、いつもの中庭を覗く。

彼は、いた。

どうしたのだろう。
稽古の途中か、上半身裸のまま木刀を握りしめ、雨に打たれるままに茫然と立ち尽くしている。

「信長?」

私は駆け出した。
持っていた傘を差し出した。

まだ髷を結わえぬ長さの髪は雨に打たれ、しだれている。
その髪先が首にへばりつき、水が滴り落ちる。
上半身には、整った胸、腹、背中、腕の筋肉。
いつも稽古中に見ているはずの信長の裸が、雨のせいか色気付いて見える。
珠実は自身の変な気持ちに戸惑い、しばらく言葉が出せない。



「... ... つまらぬ」

「え?」

信長は珠実を抱き寄せる。
珠実の持つ傘を払い、地面に落とす。ガシャンと音が鳴る。
そのまま縁側へと珠実を連れて行き、押し倒した。

「信長はこの退屈な地獄から、抜け出す」

信長は、珠実の唇に優しくキスを落とす。

「うぬは、何を望む」





珠実は、野望など考えたこともなかった。
たまに信長に会えれば良いと思っていた。
それが当たり前にできることだと思っていた。
想う人の側にいること。
それは必然でなければ奇跡でもなく、自身の手で叶えるべきことだったのだ。
気づくのが、遅かった。








信長に愛でられる。
髪を撫でられ、唇を愛でられ、うぶな場所も彼に捧げた。
彼の逞しい体の硬さが心地良い。
雨に冷えた彼を包もうと肉体を求める。
意識が飛びそうになるとき、彼の濡れた頭に指を立て、髪を掻きむしる。

ーーうぬは、何を望むのだ。


そのときの私は目の前の快楽に喰らい付き、その問いに答えることができなかった。



彼は、失望しただろうか。






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