第2章 戦国無双/織田信長
「FORGIVE ME」
信長が幼い頃は、変わった子供だった。
若殿であるにも関わらず城下まで降り、町のいわゆるガキ大将たちを引き連れて遊んでいた。
彼が来るといじめっ子たちは信長について行くから、私にとって彼はヒーローだった。
彼はよく私に遊ぼうと誘ってくれたけど、私は取り巻きのガキ大将が怖くて、いつも遠慮していた。
そんな日は決まって帰りに、野に咲く一輪の花を手向けてくれた。
私はそれが嬉しかった。
何も言わず差し出し、何も言わず去っていく。
今思えば、それは確かに好きだと言っていたのだ。
幼い私は、その想いに気がつくことが出来なかった。
「たま」
その日も信長は、私を遊びに誘ってくれた。
その日は雨が降っていた。
信長は大人用の大きな傘を差している。
「今日あいつらは居らぬ。来い」
彼は手を差し出してくれた。
私は導かれるまま、その手を取ってしまう。
彼は私の手をぎゅっと、握り締めた。
ヒーローの手は、暖かい。
信長の差す傘に入り隣を歩く。
どこに行くのと尋ねても、答えてくれない。
私は彼にひたすらついて行く。
辿り着いたのは近くの神社だった。
朱色の鳥居をくぐり、彼に導かれたのは神社の裏手。
信長はしゃがみ、屋根の下の濡れていない石を1つ手に取った。
「なに、するの?」
信長は手に持った石で、乾いた壁に大きく傘の絵を描いた。
ゴリゴリと音を立てながら、傘の右側に信長、左側に珠実の名を書く。
「祈るよりも刻み込めば、より願いが叶うと思わぬか」
これは相合傘。
傘の下に名を書かれた2人は結ばれる。
この時初めて信長の想いに気がついた珠実は、返答に困ってしまう。
「こら!何をしている!」
神主の声に、信長と珠実は駆け出した。
神社が見えなくなるくらいまで走る。
振り返ると、大人はもう追いかけてこない。
2人はずぶ濡れになった。
互いに目が合う。なんだか可笑しくて笑った。
信長は傘を差す。
珠実は傘に入る。
右に信長、左に珠実。
「願いが、叶うといいね」