第3章 夜桜。
ブランコから見上げると空には厚い雲の隙間からぼんやりと透ける満月。その下には満開の桜の木が、一本だけ。
こんな小さな公園で、一本しかない桜。
その上夜から傘マークなのに、お花見をする人なんて誰もいない。
ブランコを軽く揺らす私の耳に心地よい声が届いたかと思うと、肩が暖かいもので包まれた。
「こんなトコ、女の子一人でいちゃ危ないよ。
俺だったら襲っちゃうかも」
リュウセイ先輩の腕、ずっと包まれていたい。
それが不可能だと分かってはいるのに。
彼の温もりを知る前なら、簡単に忘れられたのかもしれない。
あの卒業式の日、振られていればよかったのかもしれない。
……だけど今更あの日に戻れる訳もない。
「リュウセイ先輩。
今日まで、ありがとうございました。」
抱きしめられたままではいられなくて、私は彼の腕から逃れて立ち上がった。