第7章 破壊衝動
そう、洸汰は誰にも気付かれない程に、僅かばかりだが柚姫との距離を置いていた。近寄れば、辛い思いをしながら記憶を取り戻してしまうのではないか…という不安でいっぱいだった。
「俺の代わりに、お前が傍にいてくれ…。」
「そのつもりじゃなくても、俺は傍にいる。だが、お前は柚姫に好意を持っていたのではないか?」
赤司の言葉に、目を見開いていたがすぐに表現を元に戻す洸汰。
「…否定はしない。」
赤司の質問に、否定はしない洸汰はそれだけを伝えては、口を閉じる。赤司は、更に洸汰に問い掛けようとしたが、止めた。
洸汰の瞳を見れば明らかだ。辛そうに瞳がゆらゆらと左右に揺れていた。今の自分は無力だと感じているのだということを…。
「───し、て…………。」
いきなり柚姫から僅かだが声が聞こえてきた。柚姫は、寝てるとはいえ苦しげな表情をしていた。それに気付いた赤司は、柚姫の頭を優しく撫でる。
「……寝言みたいだな。」
「姫様…。今、貴方が必要なものとは…?何かしてほしいこととは?」
洸汰は、呟くように言っていた。しかし、それを答えることはないと考えていたが、意外な言葉が返ってきた。柚姫の口が開き震える声で確実に言った。
「わた、し………を………殺し…て……。」
「ひ、め…様……?」
そう柚姫からの寝言は、殺してという言葉だ。その事に驚きを隠せない洸汰だった。洸汰本人は、寝言だと分かっていてもやはり動揺はする。
「悪夢でも見てるのか?落ち着いてもらわないと…。」
赤司は相変わらず冷静だった。美希は、震える手で強く握り締めていた。