第5章 籠の中の鳥
記憶がないという事に気付いた洸汰は、柚姫に近付き優しく柚姫の手を包むように握る。
「無理に、思い出そうとしないで下さい。少しずつでいいんです。大丈夫です、焦る必要はないのです…。」
「……ありがとう、本当に……。」
柚姫は洸汰に弱々しい笑みで言った。その時、2人の会話を聞いていた人物がいた。2人にバレないように扉の向こうで気配を消し、密かに表情を歪めている。
「………母親の存在…。じゃあ、父親の存在は…?俺や柚姫の両親はどこにいる……??」
2人に聞こえない声で呟いていた光瑠。分からない…という不安な言葉が光瑠の頭の中でグルグルと回っている。
そして、その追い打ちがくるような得体の知らない不安が光瑠の心を揺さぶる。光瑠は、唇を噛み締め部屋から離れる為、歩き始める。
その背中は、どこか寂しそうにも感じた。自分でどうすればいいのか…未だに分かっていない光瑠だった。
柚姫と洸汰は、リビングに向かうとそこには黒子達と光瑠が椅子に座って待っていた。
「皆、早いね…。」
柚姫が言った通り、皆はとても早く集合していた。それだけではない。いつも寝坊をしている青峰や紫原までもが起きていたのだ。
「1人ぐらい寝坊とかいそうだったのに、俺の予想は外れたな。」
意地悪そうな笑みを浮かばせている光瑠に対して、青峰と紫原の顔色が変わった。嫌な汗が2人の頬に流れている。
「そうだな、敦…。よく起きれたが…変な汗出てないか?」